『恋とは』 努視点



「こいつ1組の真里と付き合ってるんだってよ!!」

放課後の教室。
随分寒くなってきた2月後半。
大体の生徒の入試も終わり、最近は学校に来ても専ら卒業式の練習しかしない3年は、卒業間近になると最後だからと告白し、くっつくカップルが出てきているようだ。
俺の友達も例に漏れず告白され、どうやら付き合うことにしたらしい。

「まじで?!」
「真里のどこがよかったんだよ、言ってみろよー」

授業後の教室に集まるいつもの4人のメンバーのうち俺以外の2人、驚いているのが沢田、にやにや笑いながら冷やかしをしているのが伊藤だ。
この二人は顔は悪くないと思うのだが、女子へのちょっかいが多く、あまり好かれていないため、まだ一度も告白をされたことがないらしい。
なんで俺達より先に無愛想なお前が!!等と言いながらやっかみ半分弄りたい気持ち半分で付き合い始めたらしい山元を小突いている。
告白された山元は硬派として有名で女子から話しかけられることは少ないが、裏では女子からかなり人気のようだった。

「うるせーな、別にいいだろ!!」

あまり突っ込まれたくなかった様子の山元が不機嫌そうに怒鳴ると2人はこれ以上怒らせてはまずいと思ったのか俺の後ろに隠れる。

「やだー、山元こわーい」
「四ノ宮くん助けてー」
「てめぇらな……」

わざとらしく女のような声音で喋っている2人に山元は青筋を立て、2人を睨み殺しそうな勢いで見つめる。

「あー、やだやだ、なんでこんなヤツがモテるんだろ」
「まったくだよなー」

俺という盾がいる安心感からか、2人は言いたい放題だ。
まぁこの状況はいつもの事なんだが……。
たまになんでこの中に俺がいるのかわからなくなるが、部活が同じという接点もあったためか、気づいたら1年の頃からこの4人でつるんでいた。
3人からして見れば俺が居るからこそのこのメンバーらしい。

「チッ……、そういや努は?」
「あ?」

不機嫌そうな山元が一度舌打ちをして俺を見て問いかけてきた。
傍観者で居たつもりだったのにどうやら話題の転換に使われてしまったようだ。

「そういえば学校一のモテ男なのにそういう話あんま聞かないよな」
「そういやそうだな」

後ろの2人も不思議そうに俺を見つめてくる。
見つめられても困るんだけどな……。

「よく振られたーって嘆いてる女とか、どういう女が好みなのか聞いてきて!っていう女は出てくるけど、付き合えたって自慢してるやつは見たことないな」

俺の事を放置して残りの3人が議論を始める。

「確か中2くらいまでは居たんじゃなかったっけ?」
「でも付き合ったっていうか? 努バスケしかしてなかっただろ」
「うーん……」

未だに沈黙したままの俺に焦れた伊藤が俺の方に顔を近づけてきた。
その目は意外にも真剣だ。
何でこんなことに真剣になってんだか……。

「努って好きなヤツ居んの?」

その言葉に一人の顔が浮かぶ。
俺は咄嗟に言葉を返す事が出来なかった。

「……」
「あ、その間は居るんだな?!」
「うっそマジかよ」
「誰だ?!」

一気にざわめく3人に俺は考え込む。
いる、と言ってもいいものなんだろうか。
そもそも自分のこの気持ちが本当に恋なのか、知りたいのは自分の方だ。
恋だと思った。
でもそれを恋として受け入れていいものか、俺は未だに悩んでいる。

「なぁ……、なんで山元は真里と付き合おうと思ったんだ?」
「はぁ?!」
「お前の好きな人の話はどこいった?!」
「すごい話の逸らし方だな……」

俺の話で盛り上がりそうになって安心していたところに、また自分の話が戻ってくるとは思わなかったのか、山元が驚いた声を上げる。
わからないんだよな、この気持ちが恋なのか……。
恋だとは、思う。
でもそれは思うってだけで、本当に恋なのか判断がつかなかった。
何しろ初めて生まれた気持ちだ。
困惑しかない。
これが恋だと自覚してから、兄貴のことを以前と同じようには見れなくなってしまった。
俺の不自然な態度に兄貴も戸惑っているのはわかっていたけれど、どうしてもまともに顔が見れない。
恋だとは思う。
けど、勘違いの恋でも自分が恋だと思えばそれは恋になってしまうのではないか。
そう思ったらわからなくなってしまった。
恋って、なんだ?

「俺は真面目に聞いてんの」
「……」

俺の真面目な顔に山元は訝しげな顔で俺を見つめ返す。
その顔はなんでそんな事聞くんだ?と言いたげだ。

「どうやって友達の好きと恋愛の好きを見分けるんだ?」
「え、もしかして努って……」

沢田が何かを悟ったのか、ドン引きでもしそうな勢いで俺から距離を取る。

「まさか、初恋もまだ……?」
「……まだとは言ってないだろ」
「嘘だろ?! お前女子と付き合ったことあったよな?!」
「え、もしかして好きでもないのに付き合ったの?!」

やばい、クズがいるぞクズが。と伊藤と沢田がわざと聞こえるように言ってくる。
まだとは言ってないのになんだこの責められっぷりは。

「へぇー……、モテ過ぎると恋愛もできなくなるのかー、知らなかったわー……」
「よかった、俺モテてなくて……」
「俺も」
「「お前はモテてんだろ!!」」

遠い目をする伊藤、なんとも言えない顔で呟く沢田。
しかし山元が便乗すると2人からの猛攻を浴びた。
楽しそうにじゃれあう3人を見ながら、俺は真面目な表情で問いかける。

「で、俺の質問には答えてくんないの?」
「いやー、だって友達の好きと恋愛の好きの違いって言われてもなー……」
「なー……」

やっぱり難しいか。
これが家族愛なんてものじゃない事はわかっている。
わかってはいても、認められない気持ちが強いんだ。
認めなければ兄弟という繋がりのままで居られるんじゃないか、そういう気持ちもあるからだ。
兄貴が好きだと自覚してからまだ一ヶ月も経ってないのに、俺はもうすでに怖くなっていた。
俺が兄貴を好きだと認めたら、兄弟では居られなくなるんじゃないか?
そもそもこの気持ちは伝えられる訳じゃない。
だって、俺と兄貴は兄弟なんだから……。
男同士はギリギリセーフだとしても、兄弟というハードルは高すぎる。
俺が良くても兄貴がそのハードルを越えてくれるとは思えなかった。
変なところで潔癖だしなぁ……。

「俺は、あんまり考えなかったな……」

突然山元がぽつりと呟いた。
俺を含めた3人の目が山元に向けられる。

「かわいいなって思ったから、付き合った……」

言うのが恥ずかしいのか、山元は少し頬を赤らめ、目を逸らしながらぽつりぽつりと呟く。

「友情だろうが愛情だろうが、好きな気持ちには変わりないだろ? そんな難しく考えなくてもいいんじゃないか?」
「……」

そう言われると、そうか。と何故だか納得出来てしまった。
俺の頭に気持ちよさそうに眠っていた兄貴の寝顔が浮かぶ。
そうなんだよな。
今まで出会った女の子達よりも兄貴の方が百倍可愛い気がするし今まで抜くのなんか朝勃ちくらいだったのに兄貴とエロい事をするって考えると勃つし、恋ってどうしようもないものなのかもしれない。
俺はただ、背中を押して欲しかっただけなんだろう。
この気持ちを恋だと認め、兄貴の事が好きな自分を認めるために……。
兄貴は俺がそんな事を考えてるなんて想像もしてないと思うけどな。

「まぁ恋のきっかけなんてそんなもんだよな」
「そうそう、あの胸に埋もれてー!!って思って気になって好きかもって思ったりもするし?」
「お前のそれはただの欲望だ」

自分の欲求に素直な伊藤の様子に他の二人がだからモテないんだよ、と言っている。
それに対して伊藤はなんでだよ、と不満そうに唇を尖らせていた。

「で、そうやって聞くからには努にも気になるヤツがいるんだろ。誰だよ」

にやりと笑った山元の問いかけに俺は口篭った。
まぁここまで聞いたらそりゃ聞かれるよな。
けどまさか兄貴が好きだなんていえる訳がない。

「……それは、内緒」
「なんだよそれ!!ここまで言ってそれはねぇだろ!!」
「ヒント!!ヒントだけでも!!」

俺の答えにブーイングをする2人。
山元は何か言いたげに俺を見つめてくる。
このまま何も言わないとずっと根に持たれそうだな……。

「……年上」

このくらいの情報ならいいだろうと小さな声で答えると一気に3人は食いついてくる。

「年上?!」
「え、何歳? 年上ってことは高校生?」
「通りで同い年の女子に興味ない訳だ」

年上という情報を言っただけなのに、俺を他所に3人が年上の女性を勝手に想像して盛り上がり始める。
実際は男で、更に兄貴だなんて思いもしないんだろうな。
まさかキスまでしてるなんて想像も出来ないだろう。
ふと初めて好きだと自覚した時にした眠っている兄貴への口付けを思い出す。
あの柔らかく気持ちのいい感触と満たされるような気持ちを思い出すと自然と口元が緩んだ。

「うわ、思い出し笑いかよ……」
「こりゃ今後努に告白する予定の女子達は終わったな」
「どういう意味だよ」

伊藤と山元の言葉に俺は意味がわからず問いかけると、3人は揃ってにやりと笑い、示し合わせるように声を揃えて言った。

「「「お前が相手にゾッコンって事だよ」」」

その3人の言葉を聞いて、俺は恋じゃないと思い込もうとするのを完全に諦めた。
男同士だろうが、兄弟だろうが、家族だろうが、好きになってしまったものは仕方ない。
迷惑をかけたくはないし、家族の仲を荒らす気もないが、この気持ちを今は抑えることは出来ないんだろう。
だから無理にこの恋を諦めなくてもいいんだと思う事にした。
いつか自然と抑える事が出来るかもしれないし、他に好きな人が出来るかもしれない。
もしかしたらずっと好きで居続けるかもしれない。
でも、今は自分のこの気持ちを持っていたい。
相手の言葉や行動に一喜一憂していたい。

恋とは身勝手で、どうしようもないものだと思うから……。


=END=





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